近代史

シラバス (2012年春学期)

  • 科目概要
  • 教育・経済開発・共通言語・ナショナリズム形成など、近代形成に必要な要素がどのように整備されていったか、ケーススタディとして各回テーマ別に学ぶ。専門分野や既成概念にとらわれず、自ら考えることができるように、発想を広げ、感覚を養うことを目指す。

  • 科目概要(詳細)
  • この講義では、日本をケーススタディとして、近代国家がどのように形成され、どのように変遷していったかを学ぶ。教育、経済開発、国境画定、標準国語の制定、ナショナリズムの形成、福祉政策、産業構造の転換などの問題にどう近代日本が対処してきたかを学ぶことは、現代日本の各種問題の原点を知る事になると同時に、発展途上国の近代化の問題を理解するうえでも役立つだろう。また戦後史にも重点をおき、高度成長やバブル崩壊など、知っているようで知らない近過去も社会科学的に把握することをめざす。

  • 主題と目標/授業の手法など
  •  この講義の主題は、19世紀から21世紀の近代日本を事例として、「日本における近代国家のつくられ方」と「近代国家確立後の社会変遷と政策対応」を検討することにある。
     われわれが現在暮らしている社会のありようは、どのような経緯を経て造られてきたのか。どのような選択枝を採り、どのような選択枝を放棄して形成されてきたのか。それがどのように行き詰り、どのような問題を露呈させているのか。それを振りかえることは、現在の社会の構造を理解するうえでも、また未来の選択枝を考えるうえでも役に立つ。
     と同時に、日本というひとつの地域が近代国民国家に変貌してゆく過程の検証は、総合的な政策科学のケース・スタディとしても興味深いものがある。その知識は、アジアをはじめ他の諸地域の近代化を観察するうえでも、参考になるだろう。
     この講義では、上記の目的のために、年代ごとに歴史的出来事をならべてゆくという形式をとらず、たとえば教育、公用語、ナショナリズム、産業開発など、近代国民国家にとって重要と思われるさまざまな要素の近代日本における展開を、一回の講義ごとにとりあげる。
     また後半では、そうした近代国家形成後に発生した問題、たとえば福祉、教育、家族の変化、そして現在の日本の原型をつくった高度成長、安保と安全保障などをとりあげる。そのさい、結果としてたどった歴史だけでなく、可能性が検討されながら消えていった選択枝などにも言及してゆきたい。
     このような手法により、たんなる年号や事件の羅列としての「日本史」ではなく、近代国家成立の仕組みを総合的に把握し、現実政治を分析する視点を養う場としての「近代史」を学ぶことが目標である。

  • 教材・参考文献
  • 教科書はとくに指定しない。授業ではレジュメを配付し、必要な範囲で参考図書を示す。各回の講義で質問・感想用紙を配付するので、質問などはそこに書けば、次回講義のとき可能なかぎり回答する。

  • 授業計画
  • 第1回 近代とは何か
     手始めとして、「近代とは何か」についてこの講義で必要な範囲において話す。人間が身分や慣習から自由になりながら、同時に戦争と環境破壊が絶えない「近代」とは何なのか。「近代」とはたんなる年号の区切りではなく、一定の特徴を備えた社会のかたちであることを理解してもらいたい。

    第2回 学校
     この回では、「学校」について講義する。読み書きソロバンといった「実学」を自発的に学ぶための場だった江戸時代の寺小屋にたいして、近代国家の学校の特徴の一つは、「生活の役に立たないことを、強制的に教える」という点にある。近代国家が、いったい何のために多額の予算を投じてまで、学校をつくったのかを考える。

    第3回 国語
     この回では、「国語」について講義する。国民統合が進んでいない第三世界国家では、公用語が複数だったり、英語やフランス語が公用語である(つまり「国語」と「公用語」がちがう)ケースは珍しくない。日本でも英語公用語案や漢字全廃論などの議論を経ながら、単一の「標準語」が成立していった。一つの国家に所属する人間が、全員同じ言語を話すという異常な事態は、どのように可能になったのかを学ぶ。

    第4回 ナショナリズム
     この回では、「ナショナリズム」について講義する。明治初期においては、薩摩人と会津人は自分たちが「同じ日本人」とは思っていなかった。天皇への民衆の関心はうすく、幕末の内戦では日の丸は旧幕軍側の旗だった。そうした人間集団が、いかなる方法で天皇と日の丸をいただく「日本人」として形成されていったかを考え直す。

    第5回 性と家族
     この回では、「性と家族」について講義する。性に関する観念は近代以前と近代以後では大きく異なるが、一般に誤解されているのとちがい、「封建的」と呼ばれる貞操感は明治以後に流布したものである。身分制度に基づく社会から国民国家に変貌する過程で、人々の性意識や家族形態がどのように変わったかを検証する。

    第6回 教育
     この回では、「教育」について講義する。身分秩序を破壊し、一元的な価値観のもとに自由競争による社会上昇を可能にした近代教育は、やがて心理的・社会的・経済的にさまざまな問題を引き起こす。近代教育の試行錯誤の歴史をふりかえると同時に、多様性と平等、自由と安定のジレンマというすぐれて「現代」的な問題と特徴をとらえる。

    第7回 福祉
     この回では、「福祉」について講義する。共同体の解体と競争の拡大は、必然的に競争の敗者に貧困をもたらす。その対応として、共同体の代用となる労働運動や福祉政策が生まれるが、それはやがてコーポラティズムと国家の肥大をも招いてゆく。貧困とその対応をとおして、現代国家の特性を考える。

    第8回 憲法と安保
     この回では、日本の「戦後体制」の骨格を決めている憲法と安保条約が、どのように決定されてきたのかを検証する。あわせて、それがどのように固定化され、どのように戦後日本の基本的対立軸を作ってきたかをふりかえる。

    第9回 沖縄
     この回では、沖縄問題について講義する。沖縄は日本と独特の歴史的経緯があり、また基地が偏在している土地でもある。そのような構造がどうやって固定化したかを検証するとともに、最新の安全保障動向から解決の道のりを探る。

    第10回 戦後補償
     この回では、「戦後補償」について講義する。戦後補償問題は、「南京大虐殺」や「従軍慰安婦」といった特定のトピックに議論が集中し、ナショナリズムに関する議論もからんでやや錯綜している。補償問題の全体像を把握し、現在の日本の国際的位置にこの問題が与えた経緯や影響などを整理して解説する。

    第11回 外国人
     この回では、「外国人」について講義する。現代における国民国家の成熟は、国内の国民に権利を拡張してゆく過程であると同時に、外国人との権利の差が拡大してゆく過程でもある。日本にとっての最多数の外国人である在日韓国・朝鮮人を中心に、「日本人」と外国人の境界の問題を考える。

    第12回 原子力
     この回では日本の原発の歴史について講義する。原発の歴史は、日本の核政策の歴史であると同時に、地方経済の歴史でもあり、また政治・経済・行政の問題でもある。この問題を把握するととともに、問題の解決を探る。

    第13回 高度成長
     この回では、高度経済成長について講義する。国内的な要因、国際的な要因、人口学的な要因などから高度経済成長がおこった原因と考察し、それが何を残したのかと考える。あわせて68年の学生叛乱についても述べる。

    第14回 バブル崩壊から現代まで
     この回では、バブル崩壊と冷戦終結から現在までを概観する。高度成長から1980年代まで機能した社会の在り方が限界に直面し変化を迫られている現状を説明し、今後の日本社会の在り方を占う。

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