現代社会理論
シラバス (2011年秋学期)
社会学は、柔軟で多様な学問である。およそ人間社会にある現象ならば、政治・経済・近代化・環境問題といった巨大なテーマ、産業組織や労働問題といった実用的領域、人間心理・家族・学校・フェミニズムなど日常世界の問題、果てはサブカルチャーまで、何でも社会学の対象になるといってよい。「産業」をあつかえば「産業社会学」、「政治」をあつかえば「政治社会学」、「心理」をあつかえば「社会心理学」といったぐあいで、問題の数だけ社会学は存在する。
反面、社会学は流行に左右されやすく、とりとめのない学問である。20年前にスタンダードだった学説で、今でも寿命を保っているものは驚くほど少ない。そのため、スタンダードの入門教科書もなく、あっても10年もたてば古くなり、社会学の講義と呼ばれるものも担当教員によって内容がまちまちというのが実情といってよい。
この講義では、通常の社会学の教科書のように、19世紀の古典から年代順に学説を説明したりはしない。代わって社会にある問題群、たとえばナショナリズムや教育、家族、労働、世界経済といった項目ごとに、過去にどのような分析がなされ、近年ではどのような理論構築がなされているかを概説する。主として60年代以降に主流となった、構造主義・言語論をふまえた社会学理論を紹介する。講義の目的は、さまざまな社会問題にたいする基本的なアプローチの仕方、思考の方法を学ぶことである。
まず社会学とは何かについて話す。経済学、政治学その他の社会科学との相違を、最初に把握してもらいたい。
第2回 構造主義
この回では、講義の全体を通して重要な、構造主義などの基本的な考え方を学ぶ。この回の講義を聞いておかないと後の回は全部わからなくなるので、注意すること。
第3回 言語理論
この回では、構造主義とならんで現代の社会学の重要な基本概念である、言語理論の考え方を学ぶ。この回も聞いておかないと、後の回がわからなくなるので、注意すること。
第4回 アイデンティティ
この回では、現代の社会学に大きな影響をあたえたフーコーの思想をもとに、アイデンティティという問題について講義する。
第5回 エスニック
この回では、エスニック関係の諸理論を紹介する。この分野は現在もっとも注目されている領域の一つであり、様々なアプローチが行なわれている。
第6回 ジェンダー
この回では、ジェンダー/フェミニズム関係の諸理論について述べる。ジェンダー関係の理論は、エスニック関係のそれと共通する要素があり、おなじく現在もっとも注目されている分野の一つである。
第7回 近代家族
この回では、「近代家族」および「子ども」について講義する。学校教育をうける「子ども」という観念もまた、近代になってから生れたものである。
第8回 ナショナリズム
この回では、ナショナリズムについて述べる。「伝統の創造」や「想像の共同体」など、地域研究や政治学などにおいても基礎的な概念になっているものを解説する。
第9回 世界経済システム
この回では、世界経済システム論について講義する。国際政治・経済の問題を理解するうえで、重要な総合理論の一つである。これまでの回であつかったテーマをこの理論でもう一度分析してみる視点ともなる。
第10回 労働
この回では、マルクスの思想をもとに、労働の概念について講義する。労働はなぜつまらないのかという問題から始まり、現代社会学にも影響を残している考え方を概説する。
第11回 政治と社会運動
この回では、政治や社会運動、公共性の考え方について述べる。政党組織から個人単位のボランティアまで「運動」の範囲は幅広く、社会学でも多くの蓄積がある。
第12回 消費社会と階級構造
この回では、消費社会論と階級構造について述べる。ボードリヤールやブルデューなど、教育学などにも大きな影響を与えた考え方を解説する。
第13回 文化研究
この回では、カルチュラル・スタディーズ(文化研究)の基礎について講義する。近年の社会学の潮流の一つだが、意外に長い蓄積をもつ分野でもある。
第14回 ポスト工業化と「後期近代」
この回では、情報化とグローバリゼーションの進展にともなって表れた、ポスト工業化社会の問題を講義する。日本の「格差社会論」の基礎になっているのがこの理論である。
第15回 情報化とインターネット
この回では、情報化の理論とインターネットの影響を論ずる。まだ若い社会理論分野であるが、いくつか注目すべき考え方が提示されている。